胃がんの原因菌、ヘリコバクタピロリ
免疫力や胃酸を分泌する力が不十分な幼少期に、ヘリコバクタピロリ菌(以下、ピロリ菌)を含んだ井戸水、食べ物を経口摂取していると、胃粘膜にピロリ菌が持続感染するようになります。上水道が発達し、井戸水をあまり飲まなくなった最近の若い世代では、ピロリ菌の持続感染者は少ないのですが、50歳以上の日本人では、7割の人の胃粘膜にピロリ菌が住み着いているといわれています。
ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素をだして、強力な胃酸に対抗して胃粘膜内で生き続けます。その結果、胃粘膜は徐々に萎縮していき、一部のピロリ菌感染者から胃がんが発生すると考えられます。我が国の胃がん患者さんの95%以上がピロリ菌陽性です。
ピロリ菌は、慢性の萎縮性胃炎や胃がんを引き起こすほかに、MALT(マルト)リンパ腫や特発性血小板減少症、慢性蕁麻疹など、胃以外の病気にも関係します。糖尿病の発症やアルツハイマー病に関与するのではないかという研究報告もあります。
日本人が感染しているピロリ菌は、萎縮性胃炎→胃がんへと進めていくタイプが多い一方、欧米のピロリ菌は、十二指腸潰瘍を引き起こすものが多いと言われています。欧米人に比べて日本人で胃がんが多いのは、感染するピロリ菌の菌種の違いによるのかもしれません。
胃がんにならないよう気を付けたい方は、ピロリ菌に感染しているかどうかを、まずは胃内視鏡検査で診てもらいましょう。ピロリ菌感染胃炎患者さんのほとんどが無症状です。
日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防を目的として、胃粘膜の萎縮がまだみられない若い世代(中学生以上)でのピロリ菌の診断と除菌を推奨しています。中学生ピロリ菌検査は、多くの自治体で独自に実施されるようになっています。
ピロリ陽性とわかったら、主治医と相談のうえで、除菌治療を考えましょう。日本癌学会、日本消化器病学会など専門学会は、ピロリ菌に感染している人に、すみやかな除菌治療を強く推奨しています。除菌治療は、1種類の胃酸分泌抑制剤と、2種類の抗生物質を7日間服用します。90%以上の方で除菌が成功します。再感染はまず起こらないと考えられています。
除菌が成功した後は、1年に1回の内視鏡検査を勧めています。これは、除菌できても、それ以前に感染していた期間が長いと、胃粘膜の萎縮がすすんでおり、胃がんのリスクが残るためです。定期的に内視鏡検査を受けることで、万が一発がんしても早期発見でき、内視鏡による治療のみで完治することも可能となります。